代理店の事情

あらためて私の経歴をご説明いたします

今回は、あらためて私の置かれている立場、経歴をご説明します。私は現在、22社の生命保険会社の商品を扱う、「乗合代理店」に勤務しています。

新卒から10年間はまったく異業種のシステム業界で金融機関向けのセールスをしていて、前職では銀行や保険会社向けの企業システム構築案件のような、数千万円から数億円といった単位のお金が動くプロジェクトに関わっていました。そういったプロジェクトのセールス現場では、IBMや日立、NECといった大手企業との案件の獲得合戦があるのが当たり前で、過去の類似システム構築の実績や技術力、企業の信頼性など、さまざまな観点から厳しく提案をチェックされたものでした。

そういった環境で10年間、仕事を基礎から叩き込まれてきた人間ですから、「お客様は厳しい目で提案を比較するのが当たり前」という感覚をもっているわけです。その一方、生命保険業界に入ってからはまだ2年ですから「生命保険を扱う人間の中ではまだまだキャリアは浅い」ことは否めない事実です。そのかわりに、「いくら業界の常識だろうが、おかしいものはおかしい」という、染まっていない感覚をまだもっているつもりです。

さて、そんな人間が今の保険屋の立場になってみてわかったことなのですが、保険業界の営業をしていると、販売の観点から特殊な事情がいくつもあるのです。セールスレディやライフプランナーなど、おそらく会社や立場によって異なる事情があるかと思いますが、ここではあくまでわたしの勤務する「乗合代理店」の立場で、特殊と思われる生命保険販売の実態をご紹介します。

【生保会社のノルマ】
まず、弊社は22社の生命保険会社の商品を取り扱うことができる「乗合代理店」と書きましたが、これらの会社の商品を取り扱うためのノルマがあります。ハードルは各社さまざまですが、たとえば「年X件売ること」、「年間保険料換算でX円以上売ること」、「A商品を年X件、B商品をX件売ること」などがあります。だいたい件数か売り上げか、もしくはその両方が達成条件となります。

【代理店ランク】
最低限のノルマを達成したら、次はランクです。たくさん売れば売るほど、手数料率があがります。たとえばお客様がある保険に加入して100万円の保険料を払われたとします。等級のいちばん低い3級の代理店だと5%で5万円、その次の2級の代理店だと10%で10万円、のようなイメージです。この手数料が代理店の主たる収入源となりますから、代理店側にしてみたらランクの維持、向上は最も大切な数字のひとつです。このランクの基準は各保険会社ごとによってまったく異なります。

【手数料】
一般的に、掛け捨ての商品ほど手数料は高く、貯蓄性の商品であるほど手数料は低いです。また、仮に代理店ランクが最低の会社と最高の会社でしたら、まったく同じ人に同じ保障内容の商品を売った場合でも、A代理店だったら5%だけど、B代理店には50%が支払われる、というようなことが起こり得ます。

【継続率】
契約が成立したお客様が解約することなく継続する率のことです。生命保険というのは売り手の立場でいうと「短期解約は悪」で、規定月数未満の解約にはペナルティーがあるのです。このペナルティーは会社によってさまざまですが、代理店には基本的に13か月以内の解約にはかなり重いペナルティが掛かります。

【ボーナス】
「1年以内にA商品をX件売ったら、手数料率を5%上乗せる」「4半期ごとにX万円支払う」のようなものです。キャンペーンという名目で、ある目標を達成したら生命保険会社からボーナスが払われるという場合もあります。

【特別表彰】
「保険会社規定の数値を達成したら、ご家族とともにディズニーランド貸切ツアーに招待」というようなものです。景気のいい時代には沖縄やハワイなどで盛大に行われたケースも多々あったようです。もっとも、私には縁の無い時代のことですが。

ざっと挙げただけでも、このような販売慣習があります。離職率の高い代理店ですと、代理店独自のノルマで新入社員勧誘数や獲得数などが課せられる場合もあるようです。この新入社員勧誘ノルマは、セールスレディの立場でも同様と聞きます。

これらが生命保険会社からわれわれ乗合代理店に課されているルールの一例です。お気づきになったかもしれませんが、全て「新たな保険契約を獲得すること」が目的になっていることがわかります。たとえ誰よりも「お客様のご意向にすばやく対応する」「保険金を確実にお支払いする」といったことを熱心にやったとしても、契約者から感謝はされたとしても、保険会社からビタ一文も出ることは無いのです。

ここに、買い手と売り手の大きな意識の乖離があります。買い手からすると生命保険契約でいちばん大切なことは、「万一の際に保障が受けられること=保険金の納品」。貯蓄性の高い商品であれば「解約時にきちんと返戻金が払われること」などでしょう。ところが、売り手にとっていちばん大切なことは、「最も利幅が大きい商品に加入してくれるかどうか」ということです。

極端なことは起こらなくても、上司から「来週中にあと1件、何とかこの商品を売らなければボーナスが無くなるから何とかしろ」と指示されたら、部下であれば「何とかしなければ」と思うでしょう。ニーズがぴったりあう顧客がたまたま見つかれば話しは別ですが、往々にしてそうはなりません。こういった業界慣習に「買い手が求めていない商品を買わされる」ことが起こる背景があるように感じます。
 

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