法人保険の活用法 その4 終身保険

ここまで紹介してきた3 つのタイプの保険の活用法に共通することは、「支払った保険料の2 分の1 を費用で落とすことができる」「一定期間経過後に返戻率・返戻金が非常に高くなるので、保障を取りながら退職金準備ができる」ということでした。次に紹介するのは、今までと全く異なる法人保険の使い方です。国の借金が1000 兆円と言われる日本は、これからは間違いなく資産税(所得税・相続税・贈与税)が強化される方向にあります。中小企業にとっては次の世代に相続・事業承継する際、たとえば自社株などに多額の税金が課せられることになり、代替わりが経営にとって最大のリスク要因になりかねません。とくに、同族のオーナー企業にとっては、自社株を後継者に残すのは事業承継の大前提です。ただその場合、残る相続人にも公平に他の遺産を相続させないと、不公平感からトラブルを招く『争族問題』となる可能性があります。

杞憂に感じられるかもしれませんが、自社株や不動産のように、分けられない、あるいは流動性の低い相続財産を、相続人に平等に分けるのは思った以上に骨が折れます。実際にそうしたケースで、遺産相続を遺族間で争う問題が起きてしまうのはあり得ることなのです。このような問題を解決する手段として使われるのが、代償分割という方法です。代償分割とは、資産価値が高く現金化できない財産(自社株など)を相続した相続人が、他の相続人に対して本来の取り分に応じた現金を渡すことで公平化を図る方法です。たとえば自社株は事業承継する長子が集中して相続して、長子が個人的な資産からそれに見合う現金を次子等の相続人に渡すといったやり方です。

この方法だけで問題が解決できる状況であれば話は簡単ですが、実際には長子が十分な個人資産を持っているかどうかという懸念もあれば、自社株の評価が思いのほか高くなってスムーズな遺産分割協議ができなくなってしまうのではという懸念もあります。
そこで、お勧めなのが生前贈与をしてしまうことです。生前贈与とは、オーナー社長(父親とします)が在命中に、法定相続人に毎年一定額を贈与して、それぞれの取り分を確実に渡してしまうことです。長男が自社株を100%相続する代わりに、父親が娘ふたり(長女、次女とします)に財産を毎年贈与していく、というようなイメージです。遺言書にもこれを明記して、長女と次女には相続発生時に遺留分の放棄をしてもらうことにします。事前に財産を分けてもらう代わりに、自社株という相続財産には一切権利を主張しないという約束ごとを決めるのです。家族間とはいえ、一種の取引のようなものですね。

ここに生命保険を絡めると、面白いスキームを作ることができます。例を出します。

オーナー社長(父親):50歳
次期社長(長男):25歳
長女:20歳
次女:18歳

次期社長予定の長男は、今は父親のもとで修業しています。一方の父親は10年後に代替わりを考えていて、ゆくゆくは長男に100%自社株を譲り渡すものとします。父親は10年後に不公平にならないよう、長女と次女には現金で資産を渡すことを考えました。

【資料07】
110 万円超の贈与税
資料10
さて、父親が現金を長女や次女に渡す場合には、贈与税の課税対象になります。贈与税には基礎控除があり、110 万円までは非課税です。したがって、毎年110 万円ずつを長女と次女にそれぞれ渡すというのは、無税で父親の相続財産を次の世代に渡すことができるという大きなメリットがあるのです。これだけでも、将来発生するであろう相続税を減らす効果があるのですが、贈与した110 万円を原資に生命保険を掛けると、このようになります。

商品:終身保険
契約者・受取人:長女・次女(ふたりとも専業主婦・課税所得0 円)
被保険者:父親(50歳)
保険金:1700 万円
保険期間:終身
保険料:108 万6929 円/年額
累計保険料:1086 万円
支払期間:10年

このやり方は、父親が毎年贈与する110 万円を長女と次女に直接現金で渡すのではなく、年払保険料がほぼ110 万円になるような保険に入ります。契約者・受取人は長女と次女で、被保険者は父親とします。したがって、この契約は法人契約ではなく個人契約です。具体的には、新たに長女名義、次女名義の口座に毎年110 万円を振り込み、自動的にほぼ同額の保険料が引き落とされるようにするのです。人はいつか必ず死にます。このとき生命保険に入っていれば保険金が出るわけですが、このような加入形式であれば、保険金に課税されるのは所得税の「一時所得」という区分になります。実はこの区分は課税所得が2 分の1 になるという恩典があるのです。ではこのスキームで具体的にどうなるでしょうか? 比較してみましょう。

① 何も手を打たない場合
贈与しなかったお金
110 万円× 2 人×10年= 2200 万円
相続税(MAX の50% とした場合)2200 万円×50% = 1100 万円
合計(手残り金額)
2200 万円−1100 万円= 1100 万円

② 生前贈与のみ使った場合
贈与したお金110 万円× 2 人×10年= 2200 万円
贈与税
0 円
合計(手残り金額)
2200 万円−0 円= 2200 万円

③ 生前贈与と終身保険を使った場合
保険金
1700 万円× 2 人= 3400 万円
贈与税
0 円
保険金に掛かる所得税
(3400 万円−1086 万円× 2 人分の契約)×1 / 2 ※一時所得による課税対象額= 614 万円
課税所得が0 円の場合
614 万円× 5% =31万円
合計(手残り金額)
3400 万円−31万円 = 3369 万円

① のように何も手を打たなかったら、手残りは1100 万円です。②のように生前贈与を活用し、10 年に渡って無税110 万円を娘ふたりに贈与し続ければ、手残りは2200 万円と倍になります。③のように、さらにここに生命保険のスキームを絡めると、手残りは実に3369 万円となります。何もしなかった場合の3 倍のお金を残せるのです。

お分かりのように、このプランは相続人が多ければ多いほど無税で贈与できるため有利です。ただし、贈与するための資金が必要になりますので、そこは要注意です。この場合、支払保険料が1 契約あたり1086 万円で2契約ですから、2172 万円です。それに対してリターンは3369 万円です。この差額、「3369 万円−2172 万円= 1197 万円」が保険化した効果となります。

スムーズな遺産相続というばかりでなく、長女や次女からしたら、父親が亡くなった場合にはひとりあたり3369 万円÷ 2 = 1684・5 万円を受け取れる権利が得られるのです。投資対効果の意味でも、父親が1086 万円払って娘ひとりあたりが1684・5 万円もらえるわけですから、無税で1・5 倍のリターンです。次の世代に資産を残す意味では、価値のある投資ではないでしょうか。さらに、波及的な効果もあります。生前贈与というスキームで若い次の世代に現預金を渡してしまうと、どうしても「無駄使い」のリスクがあります。この点、保険化すれば父親の死によってはじめて保険金が払われますから、無駄遣い防止の意味でも有効です。また、歳を取った父親が大切にされるという間接的な効果があるかもしれません。

こうした相続・事業承継で生命保険を活用するスキームは、実は今とても潜在ニーズがある分野です。ここで説明したプランは一例ですが、入口(予算)と出口(貰いたい遺産額)が具体的であればあるほど、ユニークなプランが提案できるからです。これからの時代に自分の財産を放っておいたら、没後、自動的に国に搾取されて終わります。財産を次世代、もしくはその次に有効に活用してもらうスキームを考えるとき、生命保険は有効に活用できる手段のひとつなのです。

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