法人保険の活用法 その3 法人がん保険

次に、法人がん保険について説明します。法人がん保険を利用したプランとしては、社長の勇退退職金プランと社員の福利厚生プランの2 つのケースが考えられます。どちらのプランでも、「契約者・受取人:法人」「被保険者:社長または社員」として加入します。 すでに個人向けのがん保険に入っている、という方も多いと思います。個人向けと法人向けの違いはいろいろあるのですが、個人向けのがん保険だと給付金は当然個人の指定口座に振り込まれますが、法人がん保険の給付金はいったん会社に支払われます。会社はそれをもとに社長もしくは社員にお見舞い金を支払うという流れになります。日本人の死亡原因の3 割はがんと言われている現在、万が一のがんに対する福利厚生があれば、社員も安心して仕事に打ち込めますし、ロイヤリティの形成にも役立ちます。

法人がん保険の返戻率は意外と高く、とくに若い間に加入した場合は将来的に100%近くになるものもあり、解約返戻金を社長や社員の退職金としても活用できます。役員ではない一般社員の場合、中途退職のリスクが気に掛かるところですが、法人がん保険は商品によっては早い時期から返戻率が高くなるものもあるので、中途退職者が多い会社では、こちらのタイプの保険を選ぶとよいでしょう。仮に被保険者である45 歳の社長が、国内で最もパフォーマンスが良い保険会社に引受上限の金額で加入するとした
場合、このようになります。

商品:法人がん保険 L 社
契約者・受取人:法人
被保険者:社長(45歳)
保障内容:入院日額6 万円ほか
保険期間:終身
保険料:382 万8480 円/年額

まず保障内容ですが、これが個人向けがん保険とは段違いです。個人向けのがん保険は、がん入院日額が5000 円から2 万円ほどで、がん診断給付金(がん罹患が確定したら貰える一時金)はその100 倍というものが一般的です。たとえば、L 社の法人向けが
ん保険にMAX 金額で入ると、その保障内容は下の表【資料07】のようになります。

【資料07】
L 社のがん保険保障内容例
資料07
がん入院日額6 万円、がん診断給付金1200 万円、さらにがん死亡保険金が6000 万円もついています。社長が若くしてがんに掛かって倒れてしまうというのは会社にとって一大事ですから、これだけの保障が付いているわけです。

次に積立部分(次ページ【資料08】参照)ですが、この保険に加入すると解約返戻率は5 年ほどで約85%に達し、その後ずっと30年以上にわたって上昇していくのです。前述した逓増定期保険を使った退職金準備のプランのデメリットは、返戻率がピークを付けている期間が2 年〜4年と短く、この間に退職する必要があることでした。一方この例では60歳以降、90%を超えた返戻率が長く続きますから、「辞め時を正確に予測できない」という経営者に向いているプランとも言えます。

【資料08】
L 社がん保険 解約返戻金の推移例
資料08
少し視点を広げておくと、退職金の準備には生命保険を利用するやり方の他にも、確定拠出年金や中小企業退職金共済などの利用も考えられます。全額か部分的かはさておき費用化できるのは共通していますが、大きく違うのが掛け金の取り扱いです。

繰り返しになりますが、生命保険の場合は支払った保険料の一部(解約返戻金)が簿外資産として保険会社に積み立てられていますから、会社に何かあった場合にはいつでも経営判断で現金化することができます。これに対し、確定拠出年金や中小企業退職金共済だと、いったん拠出したら、例え懲戒免職になった社員であろうが拠出金を戻すことはできません。その一方、社員からすれば確定拠出年金や中小企業退職金共済であれば、将来もらえる退職金を自分の運用で増やすチャンスがあります。退職金をどうやって用立てるかのプランは、このようにそれぞれ特徴がありますから、メリット、デメリットを踏まえて検討すべきといえます。

さて、法人がん保険に話を戻します。先に説明した長期定期保険、逓増定期保険と同様に、法人がん保険も税制上、保険料の2 分の1 を損金処理することが認められています。では、法人がん保険はこれら2 種類の保険と根本的にどこが違うかというと、保障
内容が「被保険者の死亡」ではなく、「被保険者のがん罹患、手術、死亡等」であることです。死亡保障性の商品は、一般的に被保険者の健康状態に規定値を超える異常があると、保険会社の審査の結果、契約を引き受けられないと判断されます(保険の専門用語で「謝絶」といいます)。法人がん保険にももちろん審査はあるのですが、死亡保障性の商品と比べるとかなり緩やかです。

一般的に死亡保障性の商品の告知事項は、保険金額と被保険者年齢が高ければ高いほど、人間ドックの結果など詳細な健康状態を保険会社に提示する必要があります。人間、歳を取るとガタが来て、いろんな数値が悪くなりがちです。せっかく有利な保険に申込をしても、健康状態に不安がある方だと「謝絶」の憂き目に合う可能性が高まります。

それに比べて法人がん保険の告知事項は、がん罹患の有無、2 か月以内の入院歴、5 年以内の手術歴程度で、通常は人間ドックの結果などを提示する必要はありません。唯一、気になる条件としては、法人がん保険は過去がんに1 回でも罹患されたことのある社長は入れません。ただしそのような場合でも、社員を被保険者にすれば社長の勇退を想定した退職金の簿外資産を作ることが可能です。年齢が高くなるにつれて、がんの罹患率は高まります。そのため、ガン保険の返戻率は若い人ほど高くなります。保険に加入する社員は若ければそれだけパフォーマンスがよいのですが、若い社員は辞めてしまう可能性がありますし、一般社員だとあまり大きな保障を掛けることができません。一方、幹部社員であればそう簡単に辞める心配はありませんが、年齢もそれなりに上がっているので、今度はパフォーマンスが落ちてしまいます。どちらも一長一短があるので、よりよい組み合わせを探ってみるのが上手な保険活用の秘訣です。

最後に、「社員に掛けた法人がん保険の解約返戻金を社長の勇退退職金に充てる」ということに違和感を覚える方がいるかもしれません。でも、この点は全く問題がありません。社員に掛けた法人がん保険を解約して益出しすることと、勇退する社長に退職金を払うことは、それぞれ独立した取引です。つまり、社員の身体で保険に入ろうが社長の身体で保険に入ろうが、社長に保障が付かないことを除いて保険の資産効果という意味では、どちらでもいいことです。2 分の1 を費用化して、支払った保険料を高い返戻率で回収できれば、社長の退職引当金として機能したことになるのです。

カテゴリー: 知らなきゃ損する法人リスク対策10の知恵 パーマリンク