消費者ニーズの変化が保険会社に与える影響

改めて質問です。あなたは、国内で営業している生命保険会社がいま何社存在するか、ご存知でしょうか。

正解は、2012 年6 月1 日現在で43社です。護送船団の時代(〜80年代)は、国内生保20 社体制と呼ばれていました。そのころと比較しますと、20年強で倍増しています。そして、単純に増えているだけではなく保険会社もずいぶんと変わっているのです。生命保険協会というところが、国内の生命保険会社の変遷図をホームページで公開していますから、ご紹介しておきましょう

「生命保険会社変遷図」社団法人生命保険協会

これを見ると、ここ10年ほどの間に業界全体が大きく変化している様子が分かります。流れとしては、旧来の保険会社同士の合併や改称、そして新規参入といった動きが見て取れます。全体的には伝統的保険会社が減少する一方で、損保系、外資系、それからネット系の企業が続々と参入しているのが、今の生命保険業界の特徴です。

さて、ご存知のとおり日本は少子高齢化社会です。『平成23年版 子ども・子育て白書』によると、わが国の人口構造は2030(平成42)年の1 億1522 万人を経て、2046( 平成58 ) 年には1 億人を割って9938 万人となり、約40 年後の2055 年には8993 万人となる見通し、とあります。2010 年は人口減少元年と言われましたが、これからは毎年人口が減少していく社会になることが明白です。

商品に対する消費者ニーズの変化

生命保険は人の体に掛けるものですから、中長期的に人口が減れば必然的に需要が減少するものと考えられます。にもかかわらず、ここ数年、新規参入する生命保険会社が増えているのです。なぜでしょうか?この謎を解くカギをいくつかご説明したいと思います。 ひとつ目のカギは、「商品に対する消費者ニーズの変化」です。総務省統計局『人口統計資料集2010』の人口統計を見ますと、日本の人口構造がこれからどのようにシフトしていくかが分かります。全体的に人口は減少していくのですが、0 〜
19歳、40〜59歳までの層は大きく人口減少が見込まれている一方で、60〜79歳の層はさほどでもなく、80歳以上の層に至っては50年で倍増する、という見通しなのです。

これが何を意味するかというと、これからの消費者ニーズは「死亡保障ニーズから生存保障ニーズへ変化する」ということです。我が国の年金財政は依然として大きな不安を抱えています。日本の年金の財政方式は賦課方式といいますが、「必要な年金原資を同時期の現役世代の保険料で賄う」という方式です。保険料率は年金受給者と現役加入者の比率で決まるため、人口変動の影響を受けます。もっと端的に言うと、国の金庫に年金原資というのは存在しないのです。なぜなら、現役加入者が払った年金の保険料は、そのまま年金受給者に支払われるからです。

いま年金受給者に支給されている年金を100 とします。そして1 人の年金受給者が貰う100 に対して、5人の現役加入者が20ずつ出して支えている構図だとしましょう。ここで年金受給者が2 人になり、現役加入者が4 人になるとどうなるでしょう? 年金額が変わらなければ、必要な年金は200 になります。そして現役加入者は4 人ですから200 ÷ 4 =50になります。現役加入者の負担が2・5 倍になるわけです。

これはさすがに厳しいでしょうから、年金を下げるという話になります。100 を80にするとどうなるでしょう?年金額は80×2 で160 になります。これを4 人で割りますから160 ÷ 4 =40。この水準でも現役加入者の負担は今の2 倍です。

賦課方式とはこういう構造ですから、「少子高齢化」は最悪なのです。逆に、高度成長期ごろの日本のように、毎年たくさん子どもが産まれて高齢者が少ない場合には、非常に理にかなった仕組みであったともいえます。このことから、たとえば50
年後にいまと同じ年金額をもらうことが可能か? と考えると「非常に難しい」と言わざるを得ないのです。

そして、毎年平均寿命は延びていますから、リタイアから死亡するまでの期間が相当長くなります。つまり、長生き自体が経済的なリスクとなる可能性が高いわけです。そういったリスク対策として、従来から幾つかの生命保険会社では「年金保険」という商品を取り扱っていました。主に退職金の預け先として人気のあった商品ですが、消費者ニーズの高まりを受け、ここ10年ほどの間に年金保険専業の保険会社が続々と新規参入しているのです。

販売チャネルに対する消費者ニーズの変化

ふたつ目のカギは、「販売チャネルに対する消費者ニーズの変化」です。大きなショッピングセンターに行くと最近必ずといっていいほど目にするのが「保険ショップ」です。大手ですと『ほけんの窓口』『保険市場』などがあります。従来型の生保レディに勧められて買うのではなく、消費者自らが出向いて納得できたら買うというスタイルです。また、最近テレビCM や雑誌、SNS などで積極的に宣伝をうっているのが、ここ数年で新規参入が続いているネット系の生保会社です。ライフネット生命やネクスティア生命などが代表的ですが、商品設計がとてもシンプルであること、ネットで手続きがすべて完結することなどの特徴があります。

こういった販売チャネルが消費者に受け入れられるようになった要因は、ずばりインターネットの普及です。保険の比較サイトやファイナンシャルプランナーのホームページなどの出現で、消費者はプロの目から見た良い保険とそうでない保険の情報、口コミなどを容易に入手できるようになりました。そういった情報を見て、プロに相談して複数の保険会社の中から検討したいという方は保険ショップの門戸をたたくでしょうし、シンプルで安くて煩わしくないものがいいという方はネット系の生命保険会社を考えるでしょう。(私見ですが、これからは保険の販売チャネルは乗合代理店経由かネット経由かに大きく収斂していくのではないかと思います)

こういった販売チャネルの多様化が意味するところですが、いわば「消費者が自ら販売チャネルや商品を選ぶ」ということに他なりません。そこで選ばれる保険はどういう保険になるでしょうか?答えは自明です。商品自体の競争力(価格、保障内容、
わかりやすさなど)が、売れ行きに大いに関係してくることになるのです。

30年前でしたら、どの保険会社の商品も横並びで同じような構造や値段だったので、人間的な繋がりだけで加入すればよかったでしょう。そもそも比較する意味があまり無かったわけです。ところが今は、同じ保障内容の商品でも保険会社や保険種類が違えば、費用対効果はまるで違ってきます。ネットの普及などで比較ができるようになった今、費用対効果がイマイチの商品ばかりを売っている保険会社の将来は明るいものとはいえないでしょう。他と比較されることを嫌う保険会社、代理店なども同様です。

このように、消費者ニーズの変化がいまや保険会社の商品、それから業界全体の構図そのものを変えるほどの影響を持つようになってきた、といえます。これは間違いなく消費者にとっていいことです。保険会社には、保険金不払い問題で地に落ちた信頼を完全に払拭するくらいの、素晴らしい商品をぜひ開発していただきたいと思います。

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