法人保険の活用法 その2 逓増定期保険

長期定期保険は、30代〜50 代前半の比較的若い経営者にとっては非常に使い勝手のよい保険です。では、それ以上の年代の経営者向けで、財務体質強化として保険を活用しながら社長の勇退資金準備もできるプランはないのでしょうか。

はい、実はあります。長期定期保険以外で、利益の圧縮ができる保険の代表が、「逓増定期保険」と「法人がん保険」の2 種類です。このうち、法人がん保険については次節で詳しく取り上げますので、ここでは逓増定期保険についてお話ししましょう。
逓増定期保険とは、読んで字のごとく定期保険の1 種で、次のような特長があります。
●加入時から保険金が徐々に増えていき(逓増していき)、最大で加入時の5 倍まで増える
●ほとんどの契約で、払った保険料の2 分の1 が費用として認められる(3 分の1 もしくは4 分の1 といったタイプもあり)
●契約内容によって、払込保険料の100%近くまで解約返戻金が貯まる

逓増定期保険を使った勇退退職金準備プランは、法人向け保険の定番中の定番です。その仕組みを【資料03】のイメージ図で確認しておきましょう。

【資料03】逓増定期保険のイメージ図
資料03
このように、逓増定期保険は補償額が徐々に大きくなるしくみになっています。また、前項でご説明した長期定期保険の解約返戻金が長い時間を掛けてゆっくり上昇していくのに対して、逓増定期保険の場合は大変短い期間で解約返戻金が上昇するプランを組むことも可能です。

ただし、解約返戻金は右肩上がりに増え続けるわけではなく、だいたいあるタイミングを境に減少し始め、やがて最後にはゼロになります。解約返戻金がピークのタイミングで、解約などの処理を行なうのが定石の活用法です。
たとえば、10年先に勇退を考えている社長がいたとします。こういう時には、10年後に解約返戻金のピークがくるような保険プランを選びます。

商品:逓増定期保険 10年先に解約返戻金のピークが来るプラン
Y 社契約者・受取人:法人
被保険者:社長(55歳)
保険金額:1 億円
保険期間:75歳まで
保険料:877 万1100 円/年額

Y 社の逓増定期保険を選択したのは、国内の保険会社の中で、10年後の返戻率が101・9%と最も高かったからです。まったく同じ保険金額(1 億円)の逓増定期保険でも、選ぶ保険商品によって、返戻率はまさに天と地ほどの違いがあります。次ページからの【資料04】と【資料05】で確認しておきましょう。

【資料04】Y 社逓増定期保険解約返戻金の推移例
資料04
【資料05】逓増定期保険保険会社ごとの比較例
【共通条件】
保険金額:1 億円
10 年後の保険料累計、解約返戻金と返戻率
資料05
いかがでしょう。この表を見るとその驚くべき違いがわかるでしょう。最もパフォーマンスに優れたY 社の返戻率が101・9%なのに対して、パフォーマンスが最低のU 社だと59%に過ぎません。Y 社では払った保険料の101・9%が戻ってくるのに対し、選択を間違えると59%しか戻ってこないのです。保険加入を検討する際、このように商品の比較選択はとても大きな差を生んでしまうことがあるのです。

さて、このY 社の保険料877 万円は、その2 分の1 の438・5 万円が費用として損金処理され、残り2分の1 の438・5 万円が資産としてバランスシートに計上されます。そして10 年後の勇退時に保険を解約すると、解約返戻金8939 万円が戻ってくることになります。
話を分かりやすくするため、単年ベースでの数字を見ていきましょう。会社からすると、毎年438・5 万円が費用として損金処理されます。たとえば、毎年1000 万円の利益が定常的に出ている企業の場合で比較してみましょう。
① 逓増定期保険を使わない場合
1000 万円×40%(法人税等税率)= 400 万円(法人税等税額)
② 逓増定期保険を使って利益を繰り延べる場合
(1000 万円−438・5 万円)×40%(法人税等税率)= 224・6 万円(法人税等税額)

このように、400 万円− 224・6 万円= 毎年175・4 万円分の税負担の抑制(利益の繰り延べ)効果が生まれるのです。次に、10年経って8939 万円の解約返戻金を取り出した場合です。10年経過時点の、バランスシートには438・5 万円× 10 年= 4385 万円が資産として積み上がっています。解約するときの会計処理としては、8939 万円−4385 万円= 4554 万円が保険の解約益として計上されます。このままですと、解約益の4554 万円は課税対象となり、その40%が税金で持っていかれてしまいます。何もしなければ、4554 万円× 40%(法人税等税率)= 1821・6 万円(法人税等税額)が法人税で持っていかれてしまうわけです。

せっかく10年間にわたって税負担の抑制(利益の繰り延べ)をしてきたのに、最後の最後に課税されてしまっては、このプランのうまみが半減してしまいます。そこで、出口のところで社長の退職金として多額の費用が発生すれば、収益と費用が相殺され、税負担が抑えられるのです。解約益課税部分の4554 万円を退職金とぶつけることによるメリットですが、実は10種類ある所得税の区分のうち、「退職所得」は税制上の恩典がもっとも配慮された所得区分なのです。たとえば、この社長の勤続年数が30
年で退職金として保険の解約益相当額の4554 万円を取るとした場合を考えてみましょう。

退職所得の計算式は、「退職所得の金額=(収入金額−退職所得控除額)× 1 / 2」退職所得控除の計算式は、「(勤続年数−20年)×70万円+ 800 万円」(※勤続年数20年以上の場合)となります。この社長の場合の退職所得控除額は、「70
万円×(30 年−20 年)+800 万円= 1500 万円」となります。ですから退職所得は、(4554 万円−1500 万円)× 1 / 2 =1527 万円となります。

さらに、退職所得は分離課税であり、他の所得とは合算せずに分離して別個に所得税を計算します。下の【資料06】を参照してください。

【資料06】退職所得税計算早見表
資料06
つまり、この社長の場合の退職所得税は「1527 万円×33%−153 万6000 円= 350 万3000 円」となります。4554 万円の解約返戻金(=退職金)に対して、そのわずか7・7%程度の350 万円しか税金が掛からないのです。給与所得の場合では住民税とあわせて最高税率が50%ですから、退職所得がいかに優遇されているかがわかります。

いかがでしょうか。少々ややこしかったでしょうか? もう一度、ここまでの説明を整理します。このプランのメリットは次のとおりです。
【法人にとってのメリット】
●保険料を積み立てている期間、税負担が抑えられる(利益を繰り延べできる)
●解約時に返戻率100%前後の資金が準備できる
●保険解約時の収益を退職金支払いにぶつけるため、退職金支払いによる一時的な収益悪化リスクを防止できる
●現役時代は大型の死亡保障が手に入る
●退職金を確実に準備できる

【個人にとってのメリット】
●計画的な退職金準備ができる(銀行預金のように流用されにくい)
●優遇税率で退職金を受け取れる

ここまでのところで、逓増定期保険を使った勇退退職金準備プランがこのように一粒で四度も五度もおいしいことがお分かりいただけたのではないでしょうか。これが、この種のプランが法人の税金対策の定番中の定番と言われる所以です。一方、メリットばかりに見えるこのプランですが、気をつけなければならない点もあります。ひとつ目には、保険料の払い込みです。どの保険にも言えることですが、上記の例では10年間は払い続けなければ損をします。定常的に払い込める保険料にすることが肝要です。

ふたつ目には、解約のタイミングです。逓増定期保険は解約返戻金のピークが続く期間が2 年〜4 年程度と比較的短いものが多く、解約のタイミングがずれると解約返戻金の受取額が大幅に減る場合があります。したがってピーク時に解約する必要があるのですが、このとき解約益が発生しますので、何か大きな費用をこのときぶつけないと解約益が課税対象になってしまうのです。このように、逓増定期保険に加入するときには、いつ使いたいのか解約の時期を明確にして、それにあった商品選択を行い、賢明な出
口戦略を立てることが成功の秘訣です。

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