保険金不払い問題を整理する

保険金不払い問題

売り手の立場としては、「できるだけたくさんの見込み顧客に、手間暇やコストを掛けずに儲かる商品を売りたい」と考えるのは、営利集団である以上は仕方がないことかもしれません。そのような「顧客に向いていない姿勢」を一消費者として応援できるかは別にして、「ボランティアではないのだからまあ理解はできる」というところでしょうか。

そして、保険販売の現場では、いわば「新契約至上主義」が蔓延しています。

この2点、「顧客に向いていない姿勢」と「新契約至上主義」が起因となり引き起こした一大事件があります。いわゆる「保険金不払い問題」です。

記憶に新しいことかと思いますが、2005年ごろから生命保険会社、損害保険会社において、保険金の不払いが多発するという社会問題がありました。金融庁は2005年から2006年の間に、不払いを理由として、4件の業務停止命令と、32件もの業務改善命令を出し、内部管理と支払管理態勢の整備を命じました。不払い自体は、ほぼすべての保険会社で見つかり、保険業界における販売・支払いに大きな問題があることが明るみになりました。

ちなみに不払いとは、このようなものを指します。

① 不適切な不払い
例:告知事項とは因果関係がない保険事故にもかかわらず、告知義務違反を理由に支払いを拒否していた
② 支払い漏れ
例:主契約の死亡保険金が払われたが、特約で付いていた特約給付金が払われるべきであったのに払われていなかった
③ 請求勧奨漏れ
例:入院給付金などの請求があったケースで、通院給付金の支払いが案内されていなかった

金融庁の指摘を受けて、各社はいっせいに膨大な労力を費やして、過去の契約全件を検証しました。検証の結果として、保険会社内の明確なルール化や管理・チェック体制が不十分であったこと、社員の商品知識不足や誤った認識があったこと、不適切な募集行為があったことなどを認めました。そして結果として、業界全体の動きとしてコンプライアンスを強化することを消費者に約束したのです。

余談ですが、わたしはこの事件の起こった2005年から2006年当時、前職のシステム会社で生損保会社の社内業務システムの提案活動に携わっていました。どちらかというと、新規システム投資を促すような提案活動が多かったように思います。しかしながら、不払い問題事件が発生してから、そのような提案は保険会社にまったく受け入れられなくなった時期がありました。

なぜかといえばこの時期に、保険会社の中で新規投資の案件はごっそり予算を削られしまったからです。投資の方向性が変わったのです。新しいことなんてやっている場合じゃない、まずはこれまでの特約を整理したり、約款や契約書類のリニューアル。それに支払い漏れを防ぐ監視システムを構築するなど再発防止策が先決だ………、一斉にそのような状況になったことをよく覚えています。

さて、この「保険金不払い問題」ですが、細かい事象のひとつひとつはさておき、
●保険金を払い渋ったこと(保険会社の問題)
●適切な保険募集を行なっていなかったこと(保険代理店・保険募集人の問題)

この2 点が大きな問題となりました。どういうことか、簡単にご説明します。

【保険金を払い渋ったこと】(保険会社の問題)
第1 章でも触れましたが、生命保険会社は1990年代にバブル崩壊後の金利低下によって、多額の逆ざやを抱えました。お客様に約束した利回りより運用利回りのほうが低いわけですから、当然マイナスです。ところがこの時期、保険会社の経費を大幅に下げられるかというと大きくは下げられません。ではどうするのか。この結果、利益を増やす手段として、支出である保険金を正当な事由であっても払い渋るという、保険の存在意義を自ら失わしめるような行為が起こるようになったのです。

【適切な保険募集を行なっていなかったこと】(保険代理店・保険募集人の問題)
保険代理店、保険募集人は、いつも新契約を取り付けることにノルマを設けられています。そのことに注力するあまり、顧客に対して正確な商品説明を行なわないなど、保障内容などを十分に理解しないまま顧客が契約するという事例や、ウソの説明をして不当に契約させてしまうといった事例などが存在しました。

その結果、契約者は請求可能な保険金の存在に気づかない、あるいは募集人に従って契約したのに、保険事故発生後の請求段階で保険金の支払いを拒否されるといった、契約者が保険金を手にできない状況を作り出す原因となったのです。

利益至上主義ここにきわまれり、といったところでしょうか。利益追求の姿勢が入口の販売の面だけでなく、出口にあたる支払いの面にまで影響して、保険が保険として機能しないという異常な状態を作り上げてしまったということが問題の本質なのです。今はこの反省を踏まえて、各保険会社は顧客保護の徹底などを打ち出して(少なくも公式ホームページなどではそのように表現されています)、相当コンプライアンスを強化しているように思えます。

しかし根本の部分で「新契約至上主義」が何か変わったかというと、あまり大きな変化は無いようです。

商品のメリットだけでなく、デメリットの部分や細部の特徴まできちんと消費者が納得できるまで話してくれる。そして仮に契約が成立しなくても文句を言わない。保険会社の代理人としてではなく、消費者の購買代理人として立ち振舞ってくれる、そんな保険代理店・保険募集人とだけお付き合いしたいものです。
 

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